秋田地方裁判所 昭和26年(行)16号 判決
原告 村木正一
被告 錦木村々長
一、主 文
原告の請求は、これを棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
第一、請求の趣旨並びに原因
原告訴訟代理人は、請求の趣旨として「被告が昭和二十六年三月二十五日原告に対してなした免職処分は無効である。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として、左のとおり陳述した。
一、原告は錦木村役場吏員で税務係を担当していたが、被告錦木村々長は原告に職務上の不正ありとして昭和二十六年三月二十五日附で免職処分した。
二、しかし、被告の右処分は、左の点で違法である。
(1)、被告の免職処分は、地方自治法施行規則第四十条による懲戒審査委員会の議を経ていない。
(2)、右委員会委員三名中の二名は村議会議員であつて、その構成が不当である。
(3)、右委員会は、後日即ち昭和二十六年三月二十八日委員会を開いたが本件について実質的な審査を行つていない。
(4)、右委員会の決定は、原告の懲戒免職を決議せず、単に責任辞職と決議したに過ぎない。
(5)、免職発令に免職の理由説明書の添付がない。
(6)、原告には、懲戒さるべき何等の不正背任の事実はない。
第二、被告の答弁
被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、原告の主張事実はこれを否認し、左のとおり陳述した。
一、原告の免職処分は、昭和二十六年三月二十二日開催した村議会に於て、原告を村吏員懲戒審査委員会に附議することを議決したので、同日懲戒審査委員会を開いて審議し、その議決によつたものであるが、その後に於て、本村吏員懲戒審査委員会中委員の定数と資格に於て地方自治法に牴触することを発見したので、同月二十八日村議会を開催して、これを是正し、新に村長の推薦による学識経験者二名、吏員一名計三名の委員を決定し、同日委員会を開いて、改めて、原告を懲戒処分に附する議決をした。そして曩に交付した辞令の日附(昭和二十六年三月二十五日)を昭和二十六年三月二十八日と訂正する通告をして、事務的処理を了したのである。しかるに原告は職を免ぜられる理由がないとして右辞令を被告村長の手許に返戻しているのである。
二、免職の理由としては、
(1)、原告は、本村の歳入となるべき昭和二十五年三月及び四月分の電気瓦斯税一万一千三百八十七円を同年七月三十日及び昭和二十五年七月分電気瓦斯税六千五十四円七十五銭を同年十月二十四日各いずれも鹿角地方事務所から受領し、これを収入役に手交せず、費消している。
(2)、原告は、本村の歳入となるべき昭和二十五年度(昭和二十五年四月から昭和二十六年三月まで)の広告税を窓口で徴収しながら一回も会計係に納入しないで、後日村長に発見されて、にわかに徴収簿を作成し、昭和二十六年四月六日金二千五百八十円を会計係に支払つている。
(3)、原告は前述の非行があるばかりでなく、村長に対し反抗的態度を示し、その出勤状況は冬期中数ケ月に互つて午前八時三十分の出勤時を無視して、午前十時六分毛馬内駅着の列車で通勤し、しばしば列車遅延のため十一時近く出勤する場合多く、しかも勤務振りにいたつては、頻る怠業的であり、公務員としての適格を欠くものである。
以上の事実は歴然たるもので、一部新聞にも掲載され、村議会の問題となり、その真相を公表して断固処分せよと要求されたが被告は本人の将来を考慮し議会の要求を一時保留することを懇請し、本人に対して再度に互つて自発的に辞表を提出することを勧告したが、頑として応じないので、万止むを得ず吏員懲戒審査委員会に諮つて同委員会の議決を経て、涙を呑んで職を免じたものである。
三、尚、原告は右懲戒審査委員会委員三名中の二名は村議会議員であるからその構成は不当であると主張するが、農村殊に当村にあつては、村議会議員は学識経験者であり、これを資格なしとすれば、他に委員を求めること至難な実状にある。したがつて、その構成は不当でない。
第三、証拠<省略>
三、理 由
原告が昭和二十五年夏頃から昭和二十六年三月まで秋田県鹿角郡錦木村役場税務係をやつていたこと、被告が原告に対して懲戒免職したことについては当事者の争わないところである。
原告は右懲戒免職は無効であると主張するので、案ずるに、地方自治法施行規定第二十四条によれば、吏員は一、職務上の義務に違反し、又は職務を怠つたとき、二、職務の内外を問はず公職上の信用を失うべき行為があつたときは、懲戒の処分を受けること明かである。
しからば、原告は前記地方自治法施行規定所定の事項に該当する行為があつたか否か、成立に争のない乙第一、第二号証並びに証人熊谷直の証言、及び同石川徳治、同赤坂ヒサ、同村木千代治の証言の各一部、原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告は昭和二十五年七月三十日鹿角郡錦木村の歳入となるべき昭和二十五年三月及び四月分の電気瓦斯税一万一千三百八十七円及び同年十月二十四日、同年七月分電気瓦斯税六千五十四円七十五銭を鹿角地方事務所から各受領し、これを収入役に納入手続をしないで、勝手に、その頃これを費消していること、又被告村長が同村に於て広告税制度を設定して以来一厘も収入がないので、これを原告に正したところ、同人は、その翌日即ち昭和二十六年四月六日訴外田代栄子を通じて、にわかに作成された徴収簿に添えて金二千五百八十円を収入役に納入するに至つたこと、尚又原告の勤務状況、殊にその冬期中は、午前十時頃の出勤で、十一時頃となることも珍らしくなく、のみならず上司に対する態度も反抗的であつたこと等が認められる。証人石川徳治、同赤坂ヒサ、同村木千代治、同村木為治の証言並びに原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用しない。しからば、右原告の所為は地方自治法施行規定第二十四条第一項第一号に該当するものといわなければならない。したがつて、この点に関する原告の主張は理由がない。
次に、原告は、原告を懲戒処分するについて、懲戒審査委員会の議を経ていない、議を経たとてしても右審査委員会の構成は不当であり、且つ、本件について実質的審査をしていないと主張する。よつて、証人石川徳治、同村木千代治の証言並びに被告本人尋問の結果を綜合すると、錦木村々議会は、原告を前段認定したような懲戒免職を受ける事由があるものとして昭和二十六年三月二十七、八日頃の村議会で懲戒審査委員会に諮ることを議決したこと、そして同月二十八日の懲戒審査委員会は原告を懲戒免職することに議決したこと、右委員会は、村役場吏員の中から石川徳治一名学識経験を有する者の中から赤坂太郎、成田忠作の二名が選ばれ、任命されて構成されていること、被告村長は右審査委員会の決議に基いて昭和二十六年三月二十八日附で、原告を懲戒免職したこと、被告から原告に対し右同日附で免職した旨並びにその理由を告知してあること等を認めることができる。
しからば、原告は適法な手続によつて適法に懲戒免職されたものというべく、この点についての原告の主張はまた理由がない。
原告は、前記懲戒審査委員会の委員の中に、村議会議員たる赤坂、成田の二委員が構成員となつているのは不当だと主張するけれど、地方自治法施行規定第四十条は懲戒審査委員会委員は学識経験を有する者の中から二名を選ぶべきことを要求するに止まり、村議会議員たる学識経験者を除くとは規定されていない、又かゝる臨時的委員は村議会議会たる者の兼職を禁止する規定もない。原告の主張は理由がない。
尚原告は本件免職には免職理由書の添附がないと主張するが、前認定に反する事実に基く原告の右主張は採用の限りでない。
以上いずれも原告の主張はその理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 百武一 安田忠治 阿部哲太郎)